自動車産業は、新しいデジタルの世界への対応を始めていますが、地政学的、経済的、自然災害的な危機といった様々な問題がその変化のスピードを速めています。

データ量、速度、頻度の増加、顧客の要求の変化、外部からの影響などが重なる中、自動車産業のCEO達が、どのようにレジリエンスを実現できるのか改めて考えた結果、その多くが今後数ヶ月から数年の間にビジネスを前進させるのはサプライチェーンの変革であるという結論に達しています。

この変革は、需要、供給、在庫、輸送、倉庫のプランニングに及び、デジタル資産全体から収集される膨大なデータによってもたらされます。しかし、これらに対する 『VUCA』、つまり、変動性、不確実性、複雑性、あいまい性をもたらす外部からの影響も増えてきています。

ブレグジット、スエズ運河の事故、インフレ、COVID-19、半導体不足、ウクライナ紛争など、サプライチェーンの混乱を飲み込んだ嵐「ニューノーマル」が出現しており、自動車メーカーは、次に発生する予期しない混乱に対して、事後に対処するのではなく、先手を打つ必要性を認識しています。

それには、サプライチェーンの見直しが必要です。

なぜ、自動車産業がこれほどまでに大きな影響を受けたのか。これはグローバル、かつ、業種横断的な事象だったからだと考えられます。

まず、自動車産業のエコシステムが複雑であることが一因です。OEMだけでなく、Tier1、Tier2、Tier3のサプライヤー、物流サービスプロバイダー、そしてディーラーまでが、それぞれの効率や失敗が互いに影響しあって成り立っています。この関係性は、連鎖的なチェーンというよりもネットワークというべきでしょう。

そのネットワーク全体で前述のようなサプライチェーンの混乱に加えて、さらに40年振りの高水準に達したインフレ、ネットワーク全体の渋滞、輸送の遅延、港での荷崩れ、COVID-19による大幅な労働力不足なども発生しています。特にTier 1サプライヤーは、材料費の増加、サプライチェーンの混乱、輸送コストの上昇によって圧迫されています。同時に、需要構成の変化は自動車メーカーに大きな影響を与え、EBITDA(金利、税金、減価償却前利益)マージンに大きな打撃を与えています。そのためOEMは価格を引き上げたものの、Tier 1サプライヤーはそのコストの大半を吸収しなければなりませんでした。

また、業界の変容も起きており、自動車業界と、産業機器、ハイテク、半導体、家電業界はネットワーク内での結びつきや影響が強くなっています。現代において自動車は、車輪のついたコンピュータであり、これらの分野のいずれかが不足すれば、車輪が外れるのと同じことです。マッキンゼーによれば、このように業種の境界が曖昧になり、2030年には100%の自動車がコネクテッド・カーになると予想されています。また、同レポートによると、2023年には、販売される新車の50%が高度に自律化され、50%が電気自動車になると予測されています(米国大統領は、電気自動車の販売目標を50%と発表しました)。

この変化のスピードは、現在進行中の嵐を再認識させられ、そして、この嵐の中で、CEOの70%が自社のビジネスが無傷で終わるためにはサプライチェーンの見直しが不可欠だと考えています。この混乱の度合いを考えれば、そう考えないわけがありません。

しかし、これは同時に、よりレジリエンスを高めるにはどうしたらいいかという重要な問いかけも引き起こしています。

短期・中期・長期のソリューション

レジリエンスの向上については、サプライチェーンにおける短期、中期、長期の3つの時間軸で考えられます。

短期的には、エンドツーエンドの可視性がレジリエンスには必要です。メーカーが業界の変容を受け入れ、各プロセス拠点をつなげて対応するためには必須です。OEM、すべてのサプライヤー層、配送センター、販売店に至るまで、商品の流れ全体を可視化することで、問題の影響をより正確に測定することができます。完全な可視化によって、先手を打ってリスクを軽減できるのです。

中期的には、シナリオプランニング、シミュレーション機能の改善、複数階層の在庫最適化により、サプライチェーンのレジリエンスを高めることができます。コスト、持続可能性、顧客への影響などのトレードオフを理解した上で、強固な緊急時対応策となるさまざまなシナリオを作成する必要があります。需要実現、需要構成、供給中断のシナリオをこのように作り、実行はエンドツーエンドの可視化によって支援されます。ここでのレジリエンスとは、敏捷性と無駄のなさを同時に実現することであり、コスト管理、運転資本の削減、キャッシュフローの確保を意味します。インフレ率が40年振りの高水準にあり、CEOの55%がさらなる大幅な上昇を予想している中、マヒンドラ&マヒンドラのような企業がAIや機械学習(ML)を活用し、予測と意思決定をより正確に行うことは驚くことではありません。Blue Yonderとの連携により、同社はサービスレベルを10%向上させ、同時に在庫投資を20%、顧客対応時間を40%削減しました。この中期的な戦略の成果として、全体で事業収益が10%増加しました。

長期的には、レジリエンスはリスクの軽減を中心に据えるべきでしょう。最近の地政学的な出来事やCOVID-19は、予期せぬところから混乱が起こることを証明していますし、未知の事態に対処するために必要なことは俊敏性です。サプライチェーンネットワークの設計を見直し、その流れを再構築することで、メーカーは予期せぬ事態に見舞われた場合でも、より安定的に対応できるようになります。マルチ・ショアリングやニアショアリングはその一例であり、単一の供給源への依存を排除することになります。

不況下での投資

デジタルの変化のスピードは、自動車業界にとって困難でありながらも、サプライチェーンの混乱を管理し、先手を打って対処するための、より革新的で高度な方法を提供することになりました。

接続され、直感的で、自動化されたサプライチェーンソリューションは、事後の対処を、先手に変えることができます。社内外のビッグデータを取り込んで分析する能力を向上させ、AIや機械学習機能を活用して予測的・処方的な分析を行うことで、何が起こっているのか、起こりうることにどう対応すべきかという洞察を得ることができます。

そして何より、このようなソリューションは、業種の境界の曖昧さに対応し、プラットフォームを通じて点と点を結ぶことを目指すプロバイダーによって、数ヶ月や数年ではなく、数週間で実装できるようになりました。そのため、サプライチェーン改善への取り組みを年々強化していこうとする自動車業界のCEOが増えてきています。そのようなビジネスリーダーや企業は、景気後退期に前向きに投資することで、来るべき好況期には最高の状態で臨むことができるのです。

自動車産業が業界の変容や不測の外部要因に適応していく中で、俊敏性、費用対効果、回復力を同時に確保できるデジタルソリューションの導入ほど重要なことはありません。サプライチェーンマネジメントは、このネットワーク全体の取り組みの管理の中枢となるもので、Blue Yonderは、適切な道すじを示すお手伝いをいたします。