この記事は Logistics Viewpoints で初出掲載されたものです。

COVID-19の発生から3年が経過した2024年夏の初頭においても、パンデミックが世界のサプライチェーンに及ぼした影響は未だ続いていました。

サプライチェーンの専門家として言えるのは、コロナ禍は私たちに混乱はつきものであることを認識させました。生産停止や資材不足から航路の封鎖まで、サプライチェーンの不確実性は日常的な事実として受け入れられています。サプライチェーンの不確実性は、物流の不測の事態にとどまらないことも判明しています。顧客の期待の高まりやオムニチャネルの需要の変化、消費者の購買行動が根本的に変化する中、パンデミックによって不確実性がさらに深刻化しました。また、パンデミック後の労働力不足により、従業員の嗜好や価値が劇的に変化することでも悪化しています。

パンデミックから得た最大の教訓は明確です。回復力を高めるためにサプライチェーンを最初から構築し、あらゆる混乱を察知して、戦略的かつ収益的に対応できるようEnd-to-Endのネットワークを準備する必要があります。回復力は非常に重要であるため、ジョー・バイデン米大統領は、サプライチェーン回復力に関して新たな国家諮問委員会を設立し、同国のサプライチェーンを強化しています。

過去3年間にわたり、ほとんどの企業は、回復力を生み出す高度なテクノロジーに投資してきました。また、倉庫管理システムや輸配送管理システム、コントロールタワー、自動化・ロボット化などのソリューションを導入してパフォーマンスを最適化してきました。その結果、作業の効率化、事実に基づいた意思決定、状況の変化に応じてより迅速に対応できるようになっています。

プラットフォーム手法の重要性

こうした投資が良い結果をもたらしている一方、企業はさらに多くのことを実施しました。パンデミックが収束するにつれ、企業はポイントテクノロジーソリューションをひとつひとつ導入するために奔走することを避ける時期に来ています。今こそ、戦略的で慎重なアプローチをとるべき時です。サプライチェーンの回復力とテクノロジーへの投資利益率を真に最大化するには、企業はEnd-to-Endの業務にわたる高度なテクノロジープラットフォームを構築し、リアルタイムの可視化、データ共有、コラボレーション、応答性を実現する必要があります。

企業はパンデミック後のサプライチェーンの刷新に苦労しましたが、多くの場合、電子商取引の注文管理や自動ピッキングなど、特定の問題を解決するニッチなポイントソリューションを導入することで、しばしば自らを窮地に追い込みました。こうしたソリューションは連携しておらず、機能を超えたコラボレーションやリアルタイムのコミュニケーション、現在の取引量を超える拡張が困難であることを認識しています。また、合併や買収が加速する中、サプライチェーンネットワークに多くの切り離されたシステムやツールがある場合、回復力のあるサプライチェーンの構築は不可能になっています。

ここ数年、デジタル変革は最優先事項でしたが、ソリューションが同じプラットフォーム上に存在し、サプライチェーンの機能全体でデータを共有しない限り、End-to-Endの変革は達成できません。プラットフォーム手法では、サプライチェーン全体で同じリアルタイムの視点、データ、優先順位、単一の進むべき道を共有することが、回復力の実現において重要です。

サプライチェーンの中核である倉庫を考える

プラットフォーム手法の重要性を示す最適な方法は、サプライチェーンの特定領域について調査することです。サプライチェーンの中核である倉庫について考えてみましょう。物流センターは大規模なコストセンターであるばかりでなく、顧客との契約を果たす際に極めて重要な役割を担っています。

パンデミック中に倉庫業務は劇的に変化し、ほとんどの企業にとって、重要なテクノロジー投資対象分野となりました。倉庫管理システム (WMS) の売上は、2022年の27.5億ドルから2030年には73億ドルへと増加する (年間成長率13.2%) と見込まれています。

倉庫自動化ソリューションは「機械、ロボット、ソフトウェアを使用して、在庫やその他商品の輸配送と保管を自動化すること」と定義され、その売上は、2030年までに576億ドル (年間成長率15.3%) に達すると予想されています。

戦略的、財務的に重要な役割を担っているため、デジタル変革を目指す多くの企業にとって倉庫が最優先事項になることは驚くことではありません。今日の倉庫は、多くの場合において倉庫管理システム (WMS)、ロボット、自動化ツールを備えています。自動化ツールには、作業ソリューション、取引ツール、労務管理システム、ヤードマネジメントソリューション、倉庫運用管理システム (WES、最近の物流の見地に関する記事で重点的に説明) などがあります。

これらの倉庫システムやツールは、エンタープライズリソース計画 (ERP) ソリューションやその他の倉庫稼働システムと緊密に統合することで、最高の価値を生み出します。

ただし、このようなケースはまれです。パンデミック以降、企業はその場しのぎの一時的な方法で倉庫最適化テクノロジーを追加してきたからです。企業は労働力不足や店舗内フルフィルメントなど特定課題の克服に苦心していたため、このような散漫な手法は理解できるものの、その結果、リアルタイムでの可視性や接続性が欠如したバラバラの倉庫環境になっています。

混乱が生じると、End-to-Endの倉庫運用では、変化の認識、解決策の合意、優先順位の共同変更、迅速な軌道修正ができません。ある分野の機能の利害関係者が、特定顧客の注文を優先するなどの変更は実施できますが、ビジネスに悪影響 (戦略的な重要性に応じて顧客を不当に扱うなど) を及ぼします。

システムが分断されている場合、乏しい在庫、労働力、その他のリソースを、全体的なビジネス上の視点から最も筋が通った方法で割り当てることができません。その狭い機能的な視点は、長期的なサプライチェーン回復力を構築する目的とは食い違っています。

急激に増大する回復力

今度は、プラットフォーム手法が今日の近代的な物流センターでできることを検討してみましょう。倉庫管理は、注意深く調整されながら組み合わされた多くの個別作業の集大成です。共有テクノロジープラットフォームは、こうした個別作業を結び付けて同期することで、今日の分断された倉庫業務をシームレスでEnd-to-Endのつながりのあるワークフローに変換します。

製品、労働力、設備、その他のリソースの変動に応じて、倉庫では、変化する状況がリアルタイムで可視化されます。人工知能 (AI) や機械学習 (ML) を活用することで、WMS や WES の最適化エンジンが解決策を決定します。次に、作業の割り振り、自動化、スケジューリング、その他のソリューションにより、新しい実行計画が自律的に連鎖します。一連のさまざまなポイントソリューションがインテリジェントなエコシステムに変換され、同じ認識、データ、戦略的な優先順位を共有します。

WMS は、プラットフォーム上のヤード、労働力、作業の割り振り、輸配送、注文、その他の管理ソリューションと連携して機能します。プラットフォームで該当レベルの統合と接続が可能な場合、サプライチェーン実行の同期化との連携を、特定のロボットや自動化ツール、ERP、顧客システム、その他のビジネス要素にまで拡張できます。End-to-Endのプラットフォームは、状況の変化に応じて自動的に変わる生命体のようになります。これが回復力の定義です。

変化する状況に合わせて刻々とリアルタイムで対応するのみならず、プラットフォーム手法では、長期的な動向に合わせて倉庫を準備できます。たとえば、流通ネットワークが新たな機能 (店舗内フルフィルメントなど) を追加する必要がある場合、ビジネスは適応性のあるフルフィルメントと倉庫管理ソリューションをプラットフォーム上で簡単かつコスト効率よく追加できます。

今日のソフトウェア企業は、既存のテクノロジーエコシステムにシームレスに追加できるコンポーザブルマイクロサービスとして多くの機能を提供しています。プラットフォームプロバイダを選択する際、企業は、確立された倉庫の専門知識とリーダーシップを中核分野 (WMS や柔軟性のある最新ソフトウェアアーキテクチャなど) とする企業を探す必要があります。クラウドネイティブなソリューションとコンポーザブルマイクロサービスは、企業が現在の課題を管理して新たな機能で今後の課題に対応するのに役立ちます。また、倉庫環境の進化に合わせて常に革新し、新機能を追加するソフトウェアベンダーを見極めるのに最適です。

パンデミックがもたらした教訓は、あらゆる不測事態に備えることでした。私たちは、業界をリードする消費財 (CPG) 企業が躍起になって消費者直販モデルや配送モデルを採用するのを目にしてきました。多くの場合、その WMS では再構築されたビジネスモデルに対応できませんでした。

適切な倉庫プラットフォームは、制約を受けることなく、堅牢な機能を備えており、メーカー、小売業者、物流サービス業者 (LSP) の多様な配送ニーズに対応します。企業は、市場で幅広く採用され、さまざまな業界で数百社の顧客を持つプラットフォームを探すべきです。

倉庫を超えて:End-to-Endのサプライチェーンプラットフォームの構築

この記事では、倉庫における共有テクノロジープラットフォームの活用に焦点を当ててきました。しかし、このプラットフォームを、輸配送管理、注文管理、需要計画と予測、供給計画、割り当てと補充、小売商取引にも拡張することを想像してください。サプライチェーン全体の基盤を、多くの作業やテクノロジーソリューションとともに共有プラットフォームに配置することこそが、真の回復力を実現する方法です。

パンデミック以降、約束されたデジタル変革に大半の企業が投資を行い、新たな混乱に備えようとしてきました。残念ながら、あまりにも多くの組織がバラバラのポイントソリューションで構成される環境を構築したために、結果は功罪相半ばするものとなりました。これらのソリューションは、狭い範囲で機能的な達成に優れているかもしれませんが、その影響範囲は当然限定的です。End-to-Endのサプライチェーンはおろか、倉庫業務を最適化するリアルタイム接続や緊密な統合が欠けています。

パンデミックの最中にも、パンデミック後においても、業務を遂行できたことは非常に大きな功績といえます。グローバルサプライチェーンには、その能力を示し、有意義な変化をもたらし、新たな敬意を勝ち得る機会となりました。今こそ、一旦立ち止まり、戦略的に先を見据えるときです。私たちは、サプライチェーンの各部門で回復力を確保することに注力してきており、その価値は明らかです。プラットフォームとより総合的な手法を採用することで、パフォーマンスを新たなレベルに引き上げ、将来に向けて大幅に回復力を強化する必要があります。